■日本ロケット協会稲谷会長の連載(ロケットニュースNO.566より)

 
日本ロケット協会 会長 稲谷 芳文 


宇宙のまがり角(3)
 
もう少しシャトルの話をします.1982年シャトルが初飛行したときは我々が大学院の学生の頃でした.なんだか新しいことが始まる様な感じもあって,よおし,次はもっといいものを作るんだよなあ,と言う感じで勉強を始めたものでした.そのころの宇宙研としての仕事は,M3SIIロケットの開発と,ハレー彗星に向けて日本で初めて惑星間に探査機を送る準備をしている,という状況でした.NASDAではH2ロケットの開発前夜,と言う状況でした.

まずシャトルってどんなのか,という勉強から始めましたが,なんだか,ロケットにハネをつけたら宇宙飛行機だ,というくらいの幼稚なノリでした.使い捨てロケットしか知らなくて,ロケットとは打ったら目の前から消えてなくなるもの,という考えしかない身としては,経済性とかターンアラウンドとか,運航の頻度や,何回飛んだら機体を買った借金が返済できるか,とか言ったことなどが大事なこと,という意識も感受性もなく,何となくの形の議論から入る,とか揚力再突入飛行とか極超音速飛行の最適な飛ばし方とか耐熱タイルとか二段燃焼高圧エンジンSSME・・などという技術的なことから入ったものでした.

この次はこんなによくするんだよなあ,というのも,部分的な再使用がシャトルで出来たのだからこの次は完全再使用だよな,二段式より単段式の方がエエよな,じゃあSSTOが次のゴールだよな・・と言うくらいの感じのノリでした.
実は,それから30年後の今でも,この状況は変わっていなくて,次のことが出来ていないどころか始まってもいない,というのが実際です.この間いろいろな試みはあったものの,H2Aの次がH2Bで,M-Vの次がイプシロンで,などと,それぞれに改善はあるのですが,大きな意味のロケットの進歩の意味ではこの30年間,本質的なことは変わっていない,とも言えます.

この間にアメリカではレーガン大統領が1986年,オリエントエクスプレスといって,単段式スペースプレーンの構想を出して,輸送の革新を立ち上げ,世の中のエアブリーザを標榜する人たちがこれをトリガーに仕事を始めました.シャトルが転がりだして4年くらいですから,次へのスタートとしては適切なタイミングだったと言えるかも知れません.このプロモーションに年間何百億と言う結構大規模な研究投資が続けられましたが,現在までエンジンの技術実証的な活動が細々と続けられている状況はあるものの,計画全体としては中止されてしまいました.

その後のメジャーな動きとしては1990年中頃の「Access to Space Study」で,これはシャトルの後継に何種類かのオプションを検討し,後に21世紀初頭にSSTOを目指したいわゆるベンチャースターの元となったものです.これも結構な規模で開発が行われましたがSSTOロケット実証機であるX−33の極低温複合材タンクの構造的問題によって開発が頓挫し,計画全体が中止になってしまいました.これではいかん,と,その後SLI(Space Launch Initiative)と言う再使用型の検討が2002年くらいから行われましたが,これは見るべきものはありませんでした.そうこうするうちにコロンビアが事故を起こし,ISSが出来て,シャトル退役,気がついたら次は何も用意出来ていなかった,というのが現実となってしまった訳です.

さて日本では,というと当時のNAL, NASDA, ISASから山中龍夫,五代富文,長友信人,大学から小林繁夫の各大先生が中心となって1987年「スペースプレーン連絡協議会」というのを作って3機関が得意なことを分担して,有翼,再使用,エアブリーザなどというキーワードで活動を始めよう,という柔らかい連携の元にそれぞれの機関で活動を始めました.私はここで使い走りのようなことをしていましたが,90年代の終わりくらいまで,基礎的な研究から小さな実験機を飛ばしたりするところまでの活動が行われました.バブルが終わり,2000年の前後に続いたロケットや衛星の失敗,世の中の雰囲気後退,景気の低迷などのあおりで,なんだか今では,まとまった活動をしている状況はありません.

Bushの探査とは,ISSの次の目標として世界で協力して,月や火星に,ということで2004年にアナウンスされました.最終的には火星に「持続的」滞在というのがゴールです.ここでは探査の話に深入りはしませんが,次の目標と言うことで,ある種の持続的なミッションを行うことを目指したものですが,結局はここでも輸送の革新,ということがないと次のゴールにはたどり着けないものではある,という話になると思います.

さて,なんだかシャトルが飛んでるこの30年の間にいろんな試みはあったものの,結局は世の中を前に進めることは出来ず,何もなしえなかった,ということではあります.曲がり角もクソもなくて単なる行き止まりになってしまっては行けませんが,今はうまく曲がると言うよりも,なんだかぐるぐる回ってる状況からどう抜け出すか,停まらずにうまく走れるのか,と言う様相を呈している,というのが実際です.それではつまらないので,どうやったら新しい状況を作れるのか,が考えるべきことでしょう.

(次回に続く)

バックナンバー
第1回 宇宙のまがり角(1)
第2回 宇宙のまがり角(2)
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